大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)4682号 判決

原告 森保

右訴訟代理人弁護士 小林寛

右同 久保井一匡

被告 河合信造

被告 河合英雄

主文

被告等は原告に対し、大阪市東住吉区鷹合町三丁目二一〇番地、家屋番号同所一七番、木造瓦葺二階建居宅、一階二十七坪八合一勺、二階十坪八合二勺、附属建物、木造瓦葺平家建居宅十二坪九合五勺のうち附属建物部分(現状十七坪四合五勺)を明渡し、且つ被告河合信造は昭和三十八年十月一日より、被告河合英雄は同年十月十一日より各自右家屋明渡済まで一ヶ月金千二百円の割合による金員を支払え。

原告の被告河合英雄に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告がその所有する本件家屋を昭和三十五年四月一日被告信造に賃料一ヶ月金千二百円で賃貸し、以来同被告は二男英雄等家族と本件家屋に居住していたが、被告英雄が結婚するや堺市日置荘西町四三番地の三所在家屋を買受け他の家族と共にこれに転居し、その後本件家屋には被告英雄夫婦のみが居住していること、原告が昭和三十八年十月三十一日被告信造に対し内容証明郵便を以て被告英雄えの無断転貸を理由に本件家屋賃貸借契約を解除する旨意思表示し、その郵便が翌十一月一日被告信造に到達したことはいずれも当事者間に争いがない。

ところで≪証拠省略≫を綜合すると「被告信造は昭和二十八年原告の前所有者の頃本件家屋に入居したものであるが、当時被告信造夫婦、その母親、被告英雄等三名の子供が同居していた。

被告英雄は現在二十六才で大阪市交通局自動車運転手として勤務しており、昭和三十八年十月十九日結婚したが、ついては本件家屋が手狭となるところから被告信造は前記堺市所在の家屋を買受け同年十月十一日同被告の妻、娘と共に本件家屋より退去し右家屋に移転居住したのであって、本件家屋には被告英雄夫婦のみを住まわせることとした。なお被告信造の母親は同被告の弟の許にあり、同被告の長男は既に別居している。

被告信造は日本合成化学に勤務し、被告英雄夫婦とは世帯を別にして生活を営んでおり、被告信造が右のとおり堺市に転居した後は、被告英雄が本件家屋を全部使用占有し被告信造とは別個に独立して生計を営んでおるものである。」以上の事実が認められる。

右認定事実からすると、被告英雄は本件家屋を独立して占有するもので被告信造は堺市に移転すると共に本件家屋の事実上の支配を被告英雄に移したものと認められ、被告等主張の如く被告英雄が被告信造の家族の一員としてその賃借権の範囲内で本件家屋に居住するものと解することはできず、結局被告信造は被告英雄に本件家屋を転貸したものといわねばならない。

被告等は右転貸については原告の承諾を得ておる旨抗争するが、被告河合信造本人尋問の結果中右主張に副う部分は証人森貞、同木下義明の各証言ならびに原告本人尋問の結果に徴し直ちに措信し難い。

かくて本件家屋賃貸借は原告の前記無断転貸を理由にこれを解除する旨の内容証明郵便が昭和三十八年十一月一日被告信造に到達したことにより適法に解除されたものというべきである。

そうだとすると被告信造は原告に対し本件家屋を原状に復して返還すべき義務があり、また契約が解除されてから後は右返還あるまで原告が使用収益できないことによって蒙る賃料相当の損害を賠償すべき義務あるものであり、被告英雄は原告に対抗する何等の権限なく本件家屋を占有してその所有権を侵害するもので所有者たる原告に対し本件家屋を明渡すと共に本件家屋を転借し占有を始めた昭和三十八年十月十一日以降右明渡済まで原告が使用収益できないことによって蒙る賃料相当損害金を支払うべき義務あるものといわざるを得ない。(尤も右賃料相当損害金については一人がその義務を果せばその限度において他の一人がその義務を免れることはいうまでもない。)

原告は被告英雄が被告信造より本件家屋を原告の承諾なしに転借し占有を始めたのは昭和三十八年十月十日であると主張するが前記認定のとおりであって右主張を認めるに足る証拠はない。

かくて原告が被告信造に対し本件家屋の明渡ならびに昭和三十八年十月一日より同年十一月一日本件家屋賃貸借解除まで一ヶ月金千二百円の割合による約定賃料の支払(被告信造はこれを拒否するに足る何等の主張立証をしない)及び右解除後本件家屋明渡済まで同じ割合による賃料相当損害金の支払を求める本訴請求は理由がありこれを認容すべきである。

しかし原告の被告英雄に対する本訴請求中本件家屋の明渡ならびに昭和三十八年十月十一日より右明渡済まで一ヶ月金千二百円の割合による賃料相当損害金の支払を求める部分は理由がありこれを認容すべきであるがその余の請求部分は失当として棄却すべきである。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を適用し、仮執行宣言はこれを付せず主文のとおり判決する。

(裁判官 山口定男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例